2021 / 04 / 08
第161回「アブダクション」から学ぶ
一般的な対症療法からの脱却するには
真の課題を発見していくために、一般論や規制概念にとらわれない「仮説」
を生み出していくにはどうしたらいいのかを考えているときに、
『アブダクション-仮説と発見の論理』という本に出会いました。この本は、科学的探究における論理学について書かれたものです。 具体的には、アメリカの論理学者・科学哲学者であるC.パースが提唱した 「アブダクション」という第三の論理的思考(第一と第二は、「演繹」と 「帰納」)について、その正当性と効用を説いています。
科学哲学における「仮説」についてですから、正直、私たちが日々かか わっている人材マネジメントや人事戦略にぴったり当てはまるとは言い 難い部分も少なくありません(基本的に大変厳密)。しかし、視点の置き方 や、陥りがちな落とし穴の本質など、とても参考になるポイントがたくさん 散りばめられてもいました。
中でもインパクトを受けたのは、これまで見えていなかった「未知の何か」 を導き出すための仮説の発見のロジックでした。アブダクションの論理の プロセスは以下のようになります。
■「驚くべき」事実Cが観測される。
■しかしもしHが真であれば、Cは当然の事柄であろう。
■よってHが真であると考えるべき理由がある。
このロジックの話に踏み込んでしまうと、ここでのエッセイではとても 収まり切れませんので割愛しますが、、、私にガツンと一撃をくれたのは、 スタートとなるのが「驚くべき事実」という点でした。アブダクション的 仮説の発見として、アイザック・ニュートンの例が引かれます。
林檎が落ちるという現象を観察していて、どんな物質も支えを外すと 落ちることに気がついたとき、そのまま「物体は支えていないと落下する」 という結論で終わる人がほとんどでしょう。だから次の行動としては、 地面への落下を阻止するのに下にネットを張るとか、熟す前に実を収穫する といった方法に話は進むことになります。そこからは、現象の裏に隠れて いる未知の何か、本質・普遍につながる仮説を発見することはできません。
一方、「そもそも林檎はどうして、必ず垂直に落ちるのか?何故、脇に 落ちたりするなど様々な方向に落ちたりしないのか?」と、自分事として 抱く「驚き」「疑問」を持つことができたとき、未知の仮説の発見への 飛躍の一歩を踏み出せる、というのです。
ニュートンの驚き、疑問があって初めて「質量はたがいに引力を及ぼし合う」 という、未知の大発見につながった、逆に言えば、大半の人が「驚き」 「疑問」を持つことなく、観察された状況をそのまま結論として終わらせて いた、ということです。
人事や組織の分野でデータや分析の話を聞くとき、どうも本質に手が届いて いないのでは?というもどかしさを感じています。これは、前者のレベルで 満足してしまっているケースが多いからなのではないか、と気がつきました。
今、様々なHRテックと呼ばれるシステムが、多様な分析テンプレートを提供 しています。ボタンを押すと簡単に「正解」が出るように思える仕組みも 少なくないようです。確かに何かを考えるきっかけにはなるかもしれません が、それらに頼るばかりでは、一般的な対症療法にしかたどり着けない はずです。
では、自分事としての驚きや疑問を喚起していくためには、どうしたらいい のか。それは、虚心坦懐に現実と向き合って、「常識」(これまでの習慣や 確定したと思われる考え方)や「流行」(誰かが今・今後の常識だと言って いること)といったものから正しい距離を取って付き合うことでしょう。
そのためには、強さと武器が必要。その武器の一つが、データの活用という ことになるのだと思います。
個人的なタスクに引き寄せて考えれば、生き生きとした「驚き」「疑問」を 引き出していけるような人材データの活用を支援し、各社の真の課題を探り 出し解決に向うための後押しをするためにHRシステムはどうあるべきか、 真剣に考えなくては、と気を引き締めています。
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(2021年4月8日)