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第39回 ダイナミックなチャレンジとは~自走する人材を生み出す~

「チャレンジすること」「主体的に行動すること」を社員に促している企業は少なくありませんが、それを実行に移す仕組みづくりは企業ごとにさまざまです。大阪に本社のあるダイドードリンコは、人事評価や新人研修の中に、社員一人ひとりが「自走」し、自らチャレンジできるようになる仕組みを組み込んでいます。人事総務本部長の濱中昭一さんと人事部教育研修担当の石原健一朗さんに、社員の主体性を醸成する取り組みについて伺いました。

  ダイドードリンコ株式会社       ダイドードリンコ株式会社
  取締役 執行役員           人事総務部 マネージャー 
  人事総務本部長 濱中 昭一 氏      採用教育研修担当 石原 健一朗 氏

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濱中 昭一氏 プロフィール

1965年奈良県生まれ。大学卒業後、1987年ダイドードリンコ(株)に入社。1994年より各営業所の所長を歴任後、2001年に営業管理課長に就任。 2002年に人事部が発足し、人事課長として着任。2011年に人事総務部長を経て、2013年より執行役員人事総務本部長に就任後、2017年より現職。

石原 健一朗氏 プロフィール

大学卒業後、京セラ株式会社に入社し、在職中は一貫して人材開発、組織開発に従事。 教育研修の全社統括部門において、階層別教育や役職別教育を新規で立ち上げ、教育体系の再構築を実施。 2015年にダイドードリンコ株式会社に入社後は、次世代リーダーの育成選抜プログラムを主軸に据えた教育体系の構築に従事しながら、採用、教育チームを統括。


地域や仲間との「共存共栄」を目指す

4月の研修の時期に、新入社員の皆さんが本社の周辺を掃除するという話を聞きしました。

濱中 本年度はコロナの影響で実施できていませんが、新入社員研修の一環として10年前から始めた取り組みです。本社周辺、半径1キロくらいの範囲を新人全員で掃除します。自社の自販機の周りに缶が転がっていると、地域の美化を損ねてしまいます。弊社にとって、日常的に「きれいにすること」はとても大切なこととされていますので、その文化を新人研修にも取り入れたかたちです。

このようなある種道徳的な研修には抵抗もありそうな気もします。議論にはなりませんでしたか。

濱中 最後は私の独断で導入しました(笑)。もちろん、会社の文化を体現するという意義もありましたが、ビジネス上の課題もあったからです。2010年の組織再編で、ダイドードリンコはメーカー機能に特化した会社となりました。つまり、自販機への商品補充などのオペレーションに、ダイドードリンコの社員が関わる機会がなくなる、ということです。しかし、自販機はお客さまとの重要な接点です。そこに関わる経験をしたことがなければ、現場への理解が乏しくなるという危機感を覚えました。そこで、研修期間中に、自販機周辺やそれが設置されている地域の清掃活動を通じて、現場感覚の醸成や理解促進につなげたいと考えました。

石原 加えて、弊社の理念の一つである「共存共栄」を体験する、という意義もあります。毎朝掃除をしていると、地域の住民の皆さんに顔を憶えていただいて、声を掛けられたり、「ありがとう」と言っていただいたりするようになります。それが正に地域との「共存共栄」の一つの形ですし、新入社員にとってはこれから働いていくことに対しての大きなモチベーションにもなります。

濱中 地域や社会との「共存共栄」だけでなく、新入社員間の「共存共栄」という視点もありますね。社会活動を通じて同期同士の絆が生まれ、それぞれ支え合っていこうという意識が強まっていきます。本当に困った時に相談に乗ってくれたり、助けてくれたりするのは新入社員研修で苦楽を共にした同期だと思います。そうした関係を早い時期から持てることは、これからの会社員生活に必ず役立つと考えています。

若いうちから「自走」してほしい

今年はコロナショックで新人研修が難しかったのではないですか。

石原 はい、難しかったですね。弊社では、長野の朝日村と里親契約を結び、森林整備活動等を行っている森があるのですが、その森にある施設で例年合宿研修を実施しています。この研修では、身体を使ったワークショップなどを行うのですが、今年はそれができませんでした。研修をオンラインで行う場合、どうしても自学自習が多くなりがちで、直接的なコミュニケーションが少なくなりがちです。すると、仲間同士の絆をつくることが難しくなります。そこでオンライン上であっても、できるだけ新人同士が互いに顔を見て、真剣に深い話ができるようなプログラム作りを工夫しました。

具体体にはどのような取り組みを行ったのですか。

石原 まずは、チームで具体的な新しい挑戦をしてもらう、というものです。弊社では、2017年度から「DyDoチャレンジアワード」という全社員が自由に事業や組織改革の提案をできる取り組みを始めているのですが、それに新入社員も参加できるようにしました。しかし、入社したばかりの彼らは事業のことや会社の課題などはよくわかっていません。ですから、まずはアワードの過去のデータを渡して理解してもらうことから始めました。そのうえで、チームごとに新しい提案を作り上げる、という課題を与えました。研修用に用意された疑似課題ではなく、生の課題ですから、真剣にならざるを得ません。

 もう一つは、コロナ禍において新人同士の絆を深める方法を考えてもらう取り組みです。自分たちのことは自分たちで考えよう、と。そこから出てきたのが、新入社員が採用サイトをつくるというアイデアでした。入社までのプロセスの中で感じたダイドードリンコの魅力を自分たち自身で伝えていきたい。そんな発想です。とてもいいアイデアだと思ったので、すぐにプロジェクトを立ち上げ、進めてもらいました。外部のウェブサイト制作会社などと連携しながら、数カ月で自分たちの力でサイトを完成させました。これはまもなく公開される予定です(2020年6月末現在)。

そもそも、新人教育ではどのような点を重視しているのですか?

濱中 若いうちから「自走」してほしいというのが私たちの思いです。主体性をもって、自分たちの意志と力で仕事をしていくということです。そのためには、まずは自分を知る必要があります。今年のオンライン研修では、4つのツールを使って適性検査を行い、それぞれの強みや傾向を多面的に把握し、それを本人とも共有しました。

石原 新人にはOJTトレーナーが一人ひとりつきます。そのトレーナーと現場のマネジメントクラスにも、同様の適性検査を受けてもらっています。そして、その結果を新入社員と共有しています。そして、現場に配属される前に、「あなたのトレーナーと上司はこういうタイプだから、どう接すればいいか自分で考えてください」と伝えます。新人が受け身になってしまわずに、自ら主体的に、周囲をどのようにコミュニケーションを取ればいいのかを考えてもらいたいからです。

濱中 実際の仕事が始まって、上司や先輩とすぐに良い関係が築けるとは限りません。上司やトレーナーと新人。それぞれがお互いの傾向を知って、最適な関係をつくっていくことが仕事の生産性につながっていくと考えています。

チャレンジしなければ評価されない

「自走」すると失敗することも確実にあると思います。失敗の捉え方に会社の文化が現われるような気もします。ダイドードリンコでは失敗をどう捉えていますか。

濱中 まず、自走してチャレンジすること。これはそれ自体で評価の加点となります。そしてそれによって失敗したとしても、マイナス評価になることはありません。会社の行動指針にも「失敗したチャレンジであっても称えます」と明記されています。チャレンジの結果は、成功よりも失敗の方が多いのが現実です。しかし、失敗することよりも、チャレンジせずに何の結果も出さない方が問題であると考えています。

失敗から学ぶことは必ずありますからね。

石原 そのとおりです。社長自身、新入社員に「10回やったら9回失敗するようなことに取り組んでください。それがチャレンジです」とはっきり伝えています。つまり、失敗の可能性が低いようなことは、チャレンジとは認められない、ということです。

濱中 そうした経験を若いうちにできるだけ経験してほしい。若いうちはチャレンジ自体が加点になります。上級職になれば、チャンレンジすることは当たり前で、より高度で難易度の高いチャレンジが求められます。ですから若いうちから、チャレンジをすることを当たり前にしていくことが大事だと考えています。

石原 私はキャリア(中途)採用でこの会社に来たのですが、本当にチャレンジしやすい環境があると感じています。チャレンジする意欲があって、手を挙げれば受け入れてくれる。そんな風土があります。前に出ようとする若手をつぶしにかかってくる人もいません。大切なのはとにかく主体性で、主体性がある人にチャンスを与えることが社風になっています。

ユニークな「チャレンジ」があれば教えてください。

濱中 自販機の「置き傘」などは、その一つでしょう。会社の40周年記念で社員からチャレンジのアイデアを募ったところ、全部で1500ものアイデアが寄せられました。「置き傘」はその一つでした。自販機の側面に置いてある傘をどなたでも自由にお使いください、という取り組みで、いつ返すかは借りた方の誠意にお任せします、というものです。返してもらえなかったらどうするのか、など議論はありましたが、まずはやってみよう、と。今では、鉄道や百貨店の忘れ物を再利用したものも含まれるようになっていて、資源の有効利用という観点も生み出しています。もちろん、同時に自販機への集客効果という効果も期待できます。

缶コーヒーを飲んで昼寝をする

最後に、働き方改革にはどのように取り組んでいらっしゃいますか?

濱中 働き方改革の中心は生産性の向上です。そして、その生産性向上のポイントは、午後の働き方だと考えています。午前中はみんな生産性高く働けるのです。しかし、昼食をとってからの午後の1時、2時くらいから一気にペースが落ちてきます。皆さん、そういう経験をお持ちのはずです。そこで私たちが始めたのが「カフェインナップ」という取り組みでした。

ナップというと、「昼寝」ですか。

濱中 そうです。昼食後に缶コーヒーを飲んで昼寝をするわけです。コーヒーに含まれるカフェインを摂取すると、摂取後30分くらいで覚醒効果が現われます。つまり、昼寝をしても30分で目が覚めるということです。実際にはそれぞれのデスクで10分から20分程度仮眠をとるというケースが多いのですが、それによって脳がリフレッシュし、午後からの仕事が目に見えてはかどるようになります。

仮眠をとることで生産性を上げる取り組みは聞いたことがありますが、缶コーヒーを飲むという話は初めて聞きました。貴社ならではですね。

濱中 そう思います。この取り組みは「お金をかけずにできる働き方改革」としてお客さまにもご提案しています。その提案が結果として、自販機設置に結びつけばいいと考えています。

石原 それから、本社では15時から5分間のストレッチタイムを設けています。これもリフレッシュ効果で午後の生産性を上げる施策です。時間外労働をなくす取り組みとしては、18時に「BGMを止める」ということをやっています。

BGMを「流す」のではなく「止める」のですか。

濱中 昨年から勤務時間中にBGMを流すようにしました。最初は気になる人もいたようですが、ほどなく定着しました。BGMが流れているのが普通になると、音楽が流れていないことがむしろ気になるようになります。音楽を止めることによって「終わりですよ」「そろそろ仕事を切り上げましょう」というメッセージがしっかりと伝わります。実際、この一年くらいで時間外労働は一人当たり1日30分、ひと月で10時間減りました。確実に効果は出ています。

オンラインでの絆づくり、自走、チャレンジと失敗、午後の生産性向上と、貴社のユニークな取り組みから刺激と多くのヒントをいただきました。本日はどうもありがとうございました。

取材協力: 楠田祐(HRエグゼクティブコンソーシアム 代表)
取  材: 大島由起子(インフォテクノスコンサルティング(株))
T E X T : 二階堂尚

(2020年6月)

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