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第41回 成長する企業には理由がある。次々と事業子会社を生み出す仕組みとは?

株式会社サイバーエージェント
人事本部 全社推進部 部長
野島 義隆氏

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藤田晋社長のリーダーシップのもと、独創的な社内制度を次々に生み出してきたサイバーエージェント。今回は同社の組織開発にフォーカスしてお話をうかがっていきます。「挑戦と安心はセット」「金銭報酬よりも感情報酬」「社員の熱量を高める」など、数々の名フレーズのもとで推進されている組織開発の具体的な内容やその成果について、人事本部全社推進部長の野島義隆さんに語っていただきました。

株式会社サイバーエージェント 人事本部 全社推進部 部長
野島 義隆氏 プロフィール

1998年から創業メンバーとしてベンチャー企業の立ち上げを経験。2003年サイバーエージェントに入社。インターネット広告部門営業局長を経て、2012年新規事業の立ち上げを子会社役員として経験。その後2014年に人事シニアマネージャーとして全社の適材適所を担当。2015年から全社推進部を立ち上げ現職。 現在は、多岐に渡る事業経験を活かし、組織開発を中心とした全社・事業・技術・スタートアップ・企業カルチャーなどのプロジェクト推進を担当している。


社員の「熱量」を高めるためのさまざまな取り組み

サイバーエージェントの組織や制度づくりは、常に話題の的になっていますね。今日はとくに組織開発について、詳しく伺っていきたいと思います。まずは、御社の組織開発の基本的な考え方からお聞かせいただけますか。

 会社のビジョンに共感する社員を増やし、それをいかに一枚岩にしていくか──。それが私たちの組織開発の基本理念です。会社のビジョンは「21世紀を代表する会社を創る」で、それを実現するために「採用」「育成」「活性化」「適材適所」「企業文化」の5つの項目に注力しています。この中のとくに「活性化」と「企業文化」を主に担当しているのが、私が部長を務めている全社推進部です。

「人事制度マッピング」という見取り図があるそうですね。

 「安心」と「挑戦」を横軸に、「金銭報酬」と「感情報酬」を縦軸にしたマップです。制度設計の思想の核となっているのは、「挑戦と安心はセット」と「金銭報酬よりも感情報酬」という2つの考え方です。「挑戦」は人材抜擢の仕掛けや企業を創っていくに関わります、「安心」は挑戦を全力でできるように労務施策を中心にそれをフォローするものになります。そこの仕組みをしっかりつくったうえで、社員の感情を高め、モチベーションを上げて、楽しく働いてもらう。それが全社的な方針です。経営陣は「社員の熱量を高める」という表現をよく使っています。


人事制度マッピング.jpg

全社推進部の具体的な取り組みについて聞かせください。

 サイバーエージェントの組織は、大きく「広告」「メディア」「ゲーム」の3つの事業部門からなります。全社推進部の役割は、そのすべての事業部門を横断する全社施策を成果最大化する形で推進することになります。具体的なフォーカスとして、例えば「スタートアップ」「YMCA」「技術推進」等があります。

 まず「スタートアップ」ですが、これは。新しい事業子会社を生み出し、成長させていく活動となります。サイバーエージェントはこれまで、M&Aに頼らず、新しい事業を生み出すことで成長してきました。子会社を次々に生み出す仕組みが、「スタートアップチャレンジ」というビジネスプランコンテストです。多い時ではここに1300くらいの事業計画案が寄せられます。平均すると毎年15社から20社くらいの新しい企業が生まれています。

 新たに設立されたスタートアップは、Jリーグのような仕組みで成長を競い合います。最初は「スタートアップJJJ」というJ2のような下位リーグに属し、そこで時価総額の順位を争います。「JJJ」とは「事業・人材・時価総額」の頭文字をとったものです。時価総額を重視するのは、発足当初のスタートアップは営業利益の差があまりつかないこともありますが、むしろ、業績と注目度や事業のポテンシャルなどから算出される時価総額の方が成長とリンクした評価をすることができます。

なるほど。そこで上位につけると、上位リーグに昇格できるわけですね。

 そのとおりです。その上位リーグが「CAJJ」で、これがいわばJ1に当たります。「CA」はサイバーエージェント、「JJ」は事業と人材を意味します。CAJJのランキングは営業利益によって決まります。

 次に「YMCA」ですが、これは若手にフォーカスした仕組みづくりです。具体的には、これは20代の社員が、部門を超えて全社的な課題解決に関与することを目指す、一種の「社内青年会議所」のようなものを運営しています。YMCAは「YoungManCyberAgent」の略です。20代の社員に限定した集まりなので、毎年代替わりが進んでいきます。

 そして、「技術推進」では技術系社員にフォーカスしています。サイバーエージェントの社員は、私たちが「ビジネス職」と呼ぶ事業部門や間接部門の社員と、「技術者」と呼ぶテクノロジー系の社員に大きく分かれます。その割合はおよそ6対4で、技術者の数は増加傾向にあります。サイバーエージェントのビジネスを支えているのはまさに技術ですが、デジタルテクノロジーの世界の進化は非常に速く、技術者間のノウハウ共有が常に課題となっています。そこで、技術者同士の繋がりを創り、情報がスピーディーに流通する仕組みなどを3年前から取り組んでいます。

疑似的な決算発表である「決算戦略説明会」で責任者を育てる

 全社の施策としては、「社員総会」「決算戦略説明会」「プロレポ」「CAramel」などといった施策があります。

 「社員総会」は、ホテルのボールルームを借り切って半期に一回開催する全社的イベントで、簡単に言えば、組織や個人に対する表彰式です。このイベントが会社のカルチャーを共有する重要な場となっていて、多い時には4000人くらいの社員が一堂に会します。今年はコロナショックで大勢が集まるのは難しかったのですが、開催はあきらめませんでした。具体的には「アカデミー賞形式」で事前にノミネート者を発表し、その人たちだけに集まってもらうという形をとりました。もちろん、イベントの模様は全社員にオンラインでライブ配信し、参加してもらいました。

 「決算戦略説明会」も半期に一回行う施策で、社内に50くらいある個別事業部門の責任者がそれぞれの事業の戦略と業績について発表する場です。いわば疑似的な決算発表のようなもので、かなり厳しい質問ややり取りが行われます。社長や役員等の前で事業の戦略や業績を発表することによって、事業責任者としての成長を促し、参加者のみなさんの前で発表することにより責任感が増すという狙いがあります。

 「プロレポ」はプロジェクトレポートの略で、各事業部門に属する個別プロジェクトの組織目標やメンバーの個人目標を冊子にして応募してもらう一種のコンテストです。これも半期に一度実施しています。今年で13回目になりますが、毎回100くらいの応募があります。

プロレポは、売り上げなどの目標を達成するための施策とは異なるのですか?

 売り上げのような定量的目標は、別途担当役員とプロジェクト責任者の話し合いによって細かに設定しています。それに対してプロレポは、メンバーの思いや熱量を表現したマニフェストのようなものです。定量目標達成のための仕組みも大事ですが、目標達成のための日々の行動を支えるのは「熱量」や「想い」です。そのポイントを意識してもらうために、プロレポの運営にも力を入れています。

 そして「CAramel」ですが、十人十色の女性の働き方を応援する組織です。「女性社員のリアルな声を、経営層に届けたい」「女性社員同士の交流の機会を増やしたい」という想いのもと発足した全社横断組織です。その響きの通り「たくさんの女性社員同士の絡める場をつくる」という意味が込められています。

サイバーエージェントには、レガシー企業と比べると女性が男性と同等に活躍できるというイメージがあります。あえて女性にフォーカスしたのはなぜですか。

 先ほどご説明したように、弊社の社員はビジネス職と技術者に分かれるのですが、技術者の社員は9割が男性です。したがって、技術者が増えるにしたがってどうしても全社の男性社員の比率が高まっていきます。さらに、女性はライフスタイルが仕事に影響を及ぼすことがあります。そのため、意識的に女性活躍を推進する必要があると思います。藤田もよく言っていますが、女性が活躍している会社は明るくて雰囲気がいい傾向がありますし、事業の成長にも女性の視点は欠かせません。

「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを」

全体像が見えたところで、スタートアップの話に戻らせてください。1300の案が寄せられて、そこから15から20のスタートアップが生まれるとのことでした。その選考基準を教えていただけますか。

 サイバーエージェントにはさまざまなアセットがあります。その企業アセットを有効活用し有望な市場で成長できるビジョンが描けているかどうか。それから、応募してきた人が将来的に経営者として成長できるポテンシャルがあるかどうか。その2点ですね。藤田は、スタートアップが成功する要素は「人が5割、市場が3割、戦略が2割」と言っています。人と事業分野の選択さえ間違えなければ8割は成功するというのが彼の考え方です。

会社化が決まったあとは、責任者が独力で事業を立ち上げるのですか。

 いいえ。経理、総務、人事、マーケティングなど、会社に必要な機能はすべて本社側でサポートします。ですから、責任者、つまり社長が一人いれば会社は成立します。会社登記の支援も本社が進めるので、早ければ1週間で会社が設立できてしまいます。本社のバックアップのもとで起業できるという点で、単独で起業する場合よりも成功の確度は高いと言えると思います。

バックアップは起業後も続くのでしょうか。

 そうです。本社側のメンバーがそのまま参画し続けます。もっとも、事業が軌道に乗り始めると、自分たちでできることはやっていきたいという希望も出てきます。その場合、設立時のメンバーは手を引いて、スタートアップ側のスタッフに仕事を委ねることになります。

当然さまざまな課題が出てくると思いますが......。

 「課題をどのように解決しているのか」とほかのスタートアップの方々から聞かれることがよくあります。しかし私たちには、課題を解決するという発想はあまりありません。課題は一つ解決しても、次の課題が必ず出てくるからです。「課題を解決する」ではなく、「成果を上げるための障害を取り除く」と考える方が、事業成功への近道であると考えています。

ビジネスプランコンテストには誰でも応募できるのですか。

 はい、応募できます。年齢も経験も関係ありません。新入社員でも内定者でも応募できます。実際、今年は内定者が3人ほど子会社の社長になっています。

起業後にどうしても事業がうまくいかないというケースもあると思います。その場合、どのようなタイミングで撤退するのでしょうか。

 もちろん、失敗するケースも少なくありません。撤退基準をいくつか設けていて、それに該当すれば会社を業態変更したり、クローズすることになります。

そこで失敗した人は、その後どうなるのですか。

 失敗しても何度でも再チャレンジができます。会社の行動規範に「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを」と明記されていて、実際、失敗後に再度起業する人もいますし、失敗の経験をいかして本社の事業部で優れた仕事をする人もいます。一度失敗したことのある人の方が、二回目の失敗のリスクは少なくなるというのが私たちの考え方です。ですから、一度起業した人は、新規事業を立ち上げるときの責任者候補リストに入り続けることになります。

 私自身、人事本部に配属される前に、事業会社を設立して撤退した経験があります。この経験は今、起業支援を行う立場になってに大いに役に立っています。失敗の中には、実際事業を経営しているときには気がつきにくい学びが数多くありますし、失敗を次に活かしていこうという気持ちが人を成長させてくれると感じています。

失敗によって、むしろモチベーションやエンゲージメントが高まるというわけですね。

 おっしゃるとおりです。失敗したということは、目標に向かって努力はしたがそこに到達しなかったということです。失敗した人の多くは、落ち込むよりも、次に挽回しようという気持ちになります。そういうマインドを社内に広めて、挑戦する人を増やしていくことも重要なことだと思います。

最初から制度を作らないことが大事

コロナショックは働き方に大きく影響していますか。

 社員同士の対面のコミュニケーションによって熱量を高めることを大切にしてきた会社なので、リモートワークで熱量をどう生み出していくかは大きな課題です。まさに今、役員間で「チーム、熱量、一体感」をテーマに議論を進めています。

 現在のところは、リモートで仕事をする日と出社する日を曜日によって分けています。それ以外にも、毎日15時にとくにテーマを決めない雑談会議を行うとか、音声チャットでいつでもフリーな会話ができるようにするといった部署ごとの個別の取り組みもあります。まだ明確な答えはありませんが、熱量を絶やさないような仕組みづくりを模索していきたいと考えています。

ここまでお話をお聞きしてきて、独自の発想でさまざまな仕組みや制度をつくられていることがよくわかりました。他社のやり方を参考にするようなことはないのでしょうか。

 もちろん参考にさせていただくことはありますが、そのまま模倣することはないですね。組織開発の目的は明確で、「一人ひとりの社員の熱量を高めること」「社員が全力で走るのをサポートすること」「楽しく競い合ってもらうこと」に尽きます。その視点さえぶらさなければ、アイデアは次々に出てくるものです。

 他社の人事部の方から制度のつくり方について質問をいただくこともあるのですが、「最初から制度をつくらないこと」と答えるようにしています。まずは個別の取り組みがあって、その取り組みの実例を社内にどんどん広めていくと、それが会社の風土として定着していきます。制度化するのはそのあとでいいと思っています。最初から制度をつくろうとすると、どうしてもルールで社員を縛ってしまうことになりますから。

最後に、人事部員に求められるものは何か、ご意見をお聞かせください。

 人と組織、その両方に目配りできることでしょうか。人の熱量を高める施策づくりと、事業の成果を出すための組織づくり。その2つに意識的に取り組むことが人事担当者の役割だと思っています。

本日はどうもありがとうございました。

取材協力: 楠田祐(HRエグゼクティブコンソーシアム 代表)
取  材: 大島由起子(インフォテクノスコンサルティング(株))
T E X T : 二階堂尚

(2020年9月)

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