2021 / 08 / 06
「人的資本経営」時代に、「人材データ」とどう向き合っていくべきか?
~真に「経営に資する人事」になるための試案2021~
■ 執筆者
インフォテクノスコンサルティング株式会社
セールス・マーケティング事業部長
大島 由起子氏
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「人的資源マネジメント」と「人的資本マネジメント」を整理する
昨今、「人的資源(Human Resource)」から「人的資本(Human Capital)」のマネジメントへ、といった言説が聞かれるようになりました。人は消費される資源ではなく、価値を生み出す資本としてとらえるべきだ、という主張です。「人材」ではなく、「人財」である、といった言い方もあります。
ただ、事業会社が事業を継続していくためには、人材も含めた適切な資源配置・活用が重要であることは論を俟ちません。
つまり、人材を、「資源」か「資本」かの二項対立で考えるのではなく、「資源」であり「資本」である、別の角度から言えば、「コスト」対象でもあり、「投資」対象でもあると考えるべきでしょう。重要なことは、コスト対象としての「資源マネジメント」の発想だけで終わってしまうのではなく、人材を「資本」「財」として捉え、その価値を上げていくためにはどうしたら良いのかを真剣に考え、行動し、その実現に近づいていくことです。
こちらも、上記の図を使って整理していきます。
まずは、「人的資源マネジメント」。目的は、「事業目標の達成」。スパンは「短期」。活動の性質は「そのものを活用して、価値を生み出す」こと。活動を総括すると、「現時点での従業員の属性(職種・役割・スキル・資格など)やヘッドカウントを正として、短期の事業・ビジネス成功のための配置・マネジメントを行う」ことであり、具体的には、「従業員属性・ヘッドカウントの把握/ビジネス目標を達成するための適正配置・組織マネジメント/事業継続に対する適正人件費管理/人材確保」といったことになります。
一方「人的資本マネジメント」。目的は、「経営理念実現/経営目標達成」。スパンは「中長期」。活動の性質は「そのもの自体の価値を上げて、企業価値を向上させる」こと。活動を総括すると、「将来に向けて、必要な人的資本を確保しその質を上げ続けていくために、育成的配置、キャリア形成、中長期教育、組織マネジメント等を行う」ことであり、具体的には、「スキル・能力育成/キャリアプラン・育成的配置/好ましい組織文化の醸成/従業員の成功支援/人材確保」といったことになります。
これらのベースとしては、コストとしての人件費、投資としての人件費を把握すること。これが、資源マネジメントと資本マネジメントの土台となります。
そのうえで、現在をベースにした静的な人的ポートフォリオ、そして未来へという時間軸の要素が入る動的なポートフォリオを把握することが必須です。そこで現状と目指す地点のGAPを把握し、その解決策を実行し、その質を上げていく。そうしたことが、実効性のある人的資源マネジメント、人的資本マネジメントを支えることになります。
繰り返しになりますが、「人的資源マネジメント」と「人的資本マネジメント」の両輪をしっかりと回すことができて初めて、短期・中期・長期の視点で、人事が経営に資することになる、ということを意識する必要があります。
■ PROFILE
インフォテクノスコンサルティング株式会社
セールス・マーケティング事業部長
大島 由起子氏
株式会社リクルート、Hewlett-Packard Australia LtdのAsia Pacific Contract Centreを経て、2004年より現職。企業の人材マネジメントにおけるIT活用推進の支援を行う。
著書:『破壊と創造の人事』(楠田祐・共著) ディスカヴァー・トゥエンティワン