第25回 元気を失った社員を、「元上司」はどうするか?

今回で25回目、2年目のスタートとなりました。

最近、少しづつ感想をいただくことも増えてきて、励みにさせていただいております。どうもありがとうございます。

そこで、初心に戻って、改めてこのメールマガジンのタイトルに使っている「適材適所」について考えてみたいと思います。

もともとの「適材適所」への思いはこちらにあります。ご興味があればどうぞ。

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ある会社での話です。

地方の事業所で非常に成果を上げている社員がいました。その名前は、全国の事業所で知られていたほどだといいます。A氏としましょう。

そこで本社の人事は、同製品を扱う規模の大きい東京事務所にA氏を異動させました。

周囲の期待を背負って東京で働き始めたA氏ですが、しばらくしても思ったほどの成果を出せません。

そこで東京の事業部長は、彼を他の製品の担当に変えることで、心機一転させようとしました。

それから数ヵ月後、彼を入社したときから知っている元上司が、久しぶりに彼に会いにきました。彼が以前の元気を失っているといううわさを聞いたからです。

元上司は、話をする前から彼がいい状態ではないことがわかったといいます。

地方の事業所で生き生きと働いていたときに彼が持っていた輝きのようなもの
が消えうせていたからです。

一方、A氏と同時期に同部署で活躍していたB氏という人物がいました。B氏は今、東京本社で活躍し、役職ランクもひとつ上がっていました。

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この話を読まれて、どんな感想を持たれたでしょうか? 状況を少し変えた部分もありますが、基本的に実話です。

もし、あなたが「元上司」で、人事権を持っているとしたら、彼をどうするでしょうか?

元の地方の事業所に戻す?

ここが頑張りどころだからと、励ます?

別の部署に異動させて、新しい上司にマネジメントをお願いする?

ここから先が、この会社が実際にやろうとしていることです。

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A氏がなぜ、あれほど地方で活躍したのか、いくつかの観点で分析しました。

まずA氏の行動特性や得意、不得意分野を、客観的な指標で分析しました。それを、元の上司などの実感値とつき合わせて検証。

一方で、その事業部の規模、扱う製品・顧客の特性など、A氏が活躍していた社内外の環境を分析しました。

同時に、B氏の行動特性についても分析し、その違いを明確にしていったのです。

そこでわかってきたことは、A氏の力が最大限に発揮できそうなのは、社内の環境としては小規模の組織。対外的には自分の感性を生かして、お客様と密接
な関係を結ぶことが成功につなが、といった仕事でした。

A氏は遠くない将来、以前活躍していたときの社内外の環境と同様の組織に異動することになるでしょう。

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私がこの話を聞いたとき、瞬間に感じたのは、A氏の出世はこれで途切れてしまうのではないか?、というものでした。そんなことを、今決めてしまっていいのか? 

その話を聞いたあと、なんとなくもやもやとしていたとき、興味深い記事に出会いました。

米国で「もっとも働きがいがある会社」といわれる米国SASの元人事部のディレクターのインタビューです。

SASについては、このメルマガの第十三回で、「“このご時世”に健康管理センターを自前で持つべきか」でも紹介させていただきました。 

ユニーク(というか、「一時代前」的?)な人事制度を持ち、通常ソフトウエアの離職率は20%を超えるといわれる中で、離職率5%以下を保ち続けているという企業です。

少し長くなりますが、引用させていただきます。

「例えば、管理職になった人がしばらくやってみて、『自分は管理職に向いていない』と悟って一社員に戻る。

これも、非常にポジティブなことと受け止められる。社員自らの居場所を見つけて、会社に貢献していると感じられることが奨励されているのです。」

「複数のキャリアを設けていることも重要ですね。管理職にならず、例えば現役のソフト開発者であり続けても、給与が増えていく仕組みを整えています。

これは収入を増やすために、社員が本当はなりたくない管理職に仕方なく就こうとするのを防ぐ効果があります」

「SASが優先しているのは、社員が快適に感じて情熱を持って働ける環境を用意することです。管理職へ昇進させることが社員に報いる唯一の手段だとは全く考えていません。」

(アリサ・ブライト氏・ 日経ビジネスオンライン 「ポスト成果主義」「“最も働きがいのある”米国企業の『内実』」より)

全文はこちらから↓
http://business.nikkeibp.co.jp/article/pba/20080718/165747/

前出のA氏の現状は、ある環境では誰よりも大きな成果を上げることができる「会社の財産」(=A氏)を使い切れていないということ。会社にとっても、
A氏自身にとっても大きな損失です。

これでA氏が退社、ということになったら、A氏は挫折感を解決できないままに会社を去ることになります。

会社サイドにとっては、これまでA氏に投資してきた人件費をすべて失うだけでなく、A氏の代わりの人を採用するための費用もかかるということ。

そうしたlose-lose(win-winの反対)状況であるのに、「役職が上の方が『偉い』」「社員たるもの、何がなんでも辞令で動いた先では頑張るべき」といっ
た価値観を、通り一辺倒に押しつけるだけでいいのか? そう思われる方は少ないないのではないでしょうか?

でも、なかなか米国SASのように実行できる企業は少ないのが現実。
なぜか。

会社の文化、人事制度といった、大きな意味での「インフラ」の問題は大きいと思います。

それは一朝一夕で変えることができない問題で、長期的な対応と大きな決断が必要になってくる課題です。

しかし、それを嘆いて諦めてしまったら先には進めません。であれば、

・本人の特性や嗜好が、客観的な指標とアナログなデータを双方からわかる。

・それぞれの組織(チーム)がどのようなミッションを持っていて、お客様の期待はどういったものなのか、そのためにどのような人材が必要なのか、ということを把握できる。

・二つをつけ合わせて、今いる社員の能力を最大限に発揮してもらえるようにPDCAをまわす。

こういったことは、小さい範囲からなら、すぐに取り組めはじめることではないか、と思うのです。

いかがでしょうか? 理想的すぎる、でしょうか?

(2008年7月25日)

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