- 戦略的人事にITを活かす - 人材・組織システム研究室
引き続き、「Beyond HR」からの話をしたいと思います。
これまでの話は、こちらから。
第9回 「タイヤ的重要性」と「デザイン的重要性」の違いが明確になっていますか?
第10回 社運をかけた競争に、「組織」「人材」の責任者ができることは何か。
第11回 超えられないと思い込んでいる「境界線」を越えてみる
人事の仕事には新しい制度や研修の導入があります。そして、それぞれの結果について経営から報告を求められることがあると思います。
それよりもまず、制度や研修の導入にあたって、その効果をきちっと説明することを求められるというのがスタートでしょう。
そのとき、単純に「この制度の導入効果は△△です」とか、「この研修を実施することで○○のような結果が期待できます」といった会話が交わされていないか、著者たちは注意を喚起します。
「え、それのどこが問題なの?」と一瞬思いますよね。
しかし、大事なことは、シナジー(相乗作用)とコンビネーション(組み合わせ)だというのです。
たとえば、チームワーク力を上がるための研修を導入しようとしているけれど、実際の現場では個人間の競争が奨励されていて、その順位によって評価を決めている。
そんなことはないでしょうか。
チームワーク力を上げようというのは会社の建前であって、結局個人が成績を上げることが大事んだよね、と社員が考えてしまったとしたら、せっかく研修自体は成功だと思っても、結局は無駄だったということになります。
見方を変えれば、全体としてのコンビネーションとシナジーがうまく働かせることができれば、1+1>2の効果も期待できるということでもあります。
人事の制度や研修の話になると、どうしても単独の効果の話に終始してしまいがちです。
しかし、
それ以前にある「ビジネスの成功」のためにどういった施策が全体として計画・実行されているのか、
今考えている制度(研修)はその中でどのような位置づけになるのか、
という視点を持つことが大事だ、ということです。
こうした視点が欠如していると、単にそれぞれの効果を相殺してしまうというだけではなく、逆効果を引き起こして大きな失敗をしてしまうことがあり、多くの会社がその罠にはまっている、というのです。
たとえば、ジャックウェルチがGEで導入した、20・70・10の法則。
従業員を評価して、下位の10%は辞めてもらうというもので、アメリカでは実際に導入した会社も少なくなかったといいます。
しかし、著者は、多くの会社が、GEがこの法則を実施してうまくいったのは他の要素との組み合わせ重要だった、という点を見落としていたと指摘します。
GEでは、数十年にわたってマネジャーの評価能力に非常に力を入れて、部下の評価能力が高いマネジャーを育成してきました。
また、成果主義の評価制度、コーチング、フィードバックのシステムを熟成してきた歴史があります。
そして、「成果の定義」「会社の価値観」といったことを公式・非公式にコミニュケーションができる仕組みを長い時間をかけて熟成してきました。
そうした土台の上で、初めて、20−70−10の法則が成立し、成功したのだと。
つまり、様々な制度や文化のシナジーがあってこその、20−70−10だったのです。
しかし、こうした全体像を理解しないで、GEの成功の元として一番わかりやすい、20−70−10という制度のみを導入してしまった企業は、効果がないどころか、逆効果を生み出してしまったというわけです。
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先日、ある企業の人事部長の方のお話を聞く機会がありました。日本でビジネスをしている方であれば、誰でもご存知の、大胆な経営で知られている企業。
その勉強会には、いったいどんな人事制度を行われているのか、興味津々の方々が集まっていました。
しかし、その部長がおっしゃるには、「我々はごく普通のことしかしていません」と。
確かに、ひとつひとつの活動(評価、教育、配置、研修など)は、驚くような突拍子もないものはありませんでした。
しかし、それぞれの施策が一つの方向を向いていること、戦略に合わないとなったら全体を大胆に見直して実行する文化、そしてすべてを徹底して行うことについては、「普通」ではありませんでした。
オペレーション自体が、「革新的」だったのです。
もし、そういったことを理解しないで、この会社が行っている施策の一部を真似たとしても、同じような効果は期待できないだろう、と思いました。
「何か新しい人事施策を考えなければ」といった課題が突きつけられたとき、「話題になっている」「他社で成功している」といったものに飛びついてしまいたくなる気持ちがあるのは否めません。
しかし、そのとき、自社の戦略、競争優位性、そして全体のシナジーとコンビネーションという関係を念頭に置く、ということが非常に重要だと思った次第です。
いかがでしょうか?
* 今回の話の前半部分は、”Beyond HR , New Science of Human Capital”
John W. Boudreau/ Peter M. Ramstad の内容をベースに、当メールマガジンの
編集人がまとめたものです。
* 英語の書籍からの引用のため、当メールマガジン編集人の責任において翻
訳をして執筆しています。原書のニュアンスを伝えきれない内容があった場合
の責任は当編集人に帰します。
(2008年2月8日)