管理人からの提言:3

経営に貢献する「人材マネジメントシステム」
「タレントマネジメントシステム」を構築するために

当研究室管理人が、人材マネジメントシステムのマーケティング・営業の経験から見えてきた人材・組織マネジメントシステムの現状の課題と、進むべき方向について考えていきます。

インフォテクノスコンサルティング株式会社
セールス・マーケティング事業本部長/人材・組織システム研究室管理人
大島由起子


「人材マネジメントにITを活用」 経営・ビジネスからの注目が集まっている

弊社が2011年から12年にかけて人材マネジメントシステムの導入をお手伝いした企業様の50%以上が、経営層や人事権を持つ上位役職者にIDを配布、もしくは配布を計画しています。人事や組織に対して決済権を持つ人たちが、人事担当者に頼んで紙やエクセルで出してもらうのを待つのではなく、自ら必要な情報に直接アクセスし、判断をしていくということです。

また、昨今の「タレントマネジメントシステム」に対する盛り上り(詳しくは、こちらをご参照ください。)に押されて、人材マネジメントにITを活用しようと検討する企業が増えているようで、昨年末から弊社にも多くのお問い合わせをいただいております。

発売から数年間は、給与システムを持たない「人事情報システム」の営業で企業を訪問しても、「人事部にシステムを売りにきて、給与システムがないなんて考えられない!」と門前払いをされることも珍しくありませんでした。しかし、ここ2~3年は、「給与システムはもう動いている。人材や組織のマネジメントに使えるシステムがほしい」という企業が増え、Rosicの導入企業も急速に増えています。

そこで2013年を迎えた今、改めて「経営に貢献できる人材マネジメントシステム」を構築するためには何が必要なのかについて考えていきたいと思います。特に、2013年に「人材マネジメントシステム」「タレントマネジメントシステム」の導入を検討されている人事担当者の方には是非ご一読ください。

経営層は何を求めているのか

まず、そもそも経営層が人事部門・人材マネジメントに関わる人たちに何を求めているでしょうか。我々が実際にうかがった言葉をアトランダムに挙げてみます。

■「人事部業務の効率化」だけをシステム導入の目的としてはいけない。業務やビジネスに役立つことを第一に考えてほしい。

■過去を振り返って分析するだけでは意味が無い。未来予測ができるシステムでなければいけない。

■従業員の配置を目的と意図を明確に持って行ないたい。

■人件費の配分を適正にすることで、成果をあげた人に報い、優秀な人材を辞めさせないようにしてほしい。

■ヒトの感覚から脱却、仮説の根拠となるデータを数値で示し、効果的な施策を提案してほしい。

■経営者が判断できるEvidenceを出してほしい。

■数字に強い人事になってほしい。

それぞれ置かれている状況の違いによって表現や抽象度合は異なりますが、まとめると、以下のようなことになるのではないでしょうか。

▶ 今いる人材で、どれだけの成果(生産性)を上げることができるのか?最大限の成果を上げるための方策が立てられているのか?

▶ 短・中・長期の経営目標を達成していくために、必要な人材はいるのか。もしくは確保し続けるための方策は立てられているのか?

▶ 数字・データに基づいた、人材マネジメントの計画・実行・検証ができるのか?経営層が判断・決断できる材料をタイムリーに提供できるか?

これらの要請が、ITを活用する、システムを導入することだけで即解決するとは思いませんが、IT/システムを上手く活用できるか否かが、その質を大きく作用することは間違いありません。そのことに気がついた企業が、経営層の要望・活用に応えられる「人材マネジメントシステム」「タレントマネジメントシステム」に注目し、投資を始めた結果が、私たちが2011年から経験していることの背景なのだと思います。

システム以前の問題: 経営層・現場など、「人材マネジメント」のステークホルダーたちがどれだけ課題と目的を共有できているか

具体的に経営層の要望・活用に十分応えていけるシステムについて考える前に、明確にしておくべきことがあります。

今必要とされているシステムは、「誰のために、どんなメリットを提供するシステムなのか」ということです。

その部分がしっかりと定まっていないと、システム選定の段階で「船頭多くして船、山に登る」ことになってしまったり、導入後に迷走を続けて期待したステップアップが実現しなくなってしまったりします。

構築するシステムが、「人事部のシステム」や「営業部のシステム」といった、既存の組織の業務範囲で考えることができるシステムなら良いのですが、「人材マネジメント」となると、関わる人が人事に限らず、経営から現場、考え方によっては従業員一人ひとりにまで広がります。従って、それに必要なシステムとなった場合には、ステークホルダー一人一人が、異なったイメージや目的・期待を持っている可能性が大いにあるのです。

人材マネジメントシステムを全社で導入しようとした場合、人事部が主導することが少なくありません。その場合、「人事(部)のシステム」という発想から意識して一旦抜け出してみることが重要です。「人材マネジメント」に関して、「経営」から求められるもの、「現場」が必要とするもの、「従業員」を活性化させるものを、どこまでどのように提供していくのか。そして、それらを提供することで、どのようなメリットを期待するのか。このことを明確にして、ステークホルダーの間でしっかりと共有できれば、システムの選定や、構築に対する投資額、構築の実現方法などについてのブレが少なくなります。

経営に貢献できるシステムに求められること

これまで、人材マネジメントシステムの導入を支援してきて、経営に貢献できるシステムにしていくには、以下の4つを実現できることが必要だと強く感じています。

▶ データの一元化
▶ データの可視化
▶ データの活用
▶ 分析・予測・KPIの実現

▶ データの一元化 ・・・ 人事に必要な情報に限らず、人材マネジメント・組織マネジメントに必要な情報がすべて一か所に格納できるということです。一人の情報なのに、部署毎や担当者毎にExcelで別々に管理されているケースが想像以上に多いのが現状です。その原因は運用や意識づけの面もありますが、システムとして自社の独自性や変化に柔軟に対応しきれない、データの取り込みや連携のハードルが高いといったことがネックになっていることも少なくありません。この部分がしっかりできていないと、その後の「可視化」「活用」「分析・予測・KPI」も不完全なものになってしまいます。

▶ データの可視化  ・・・どんなに価値ある情報がデータベースに溜まっていても、必要な人に、必要な形で、タイムリーに見えるようにしなければ、その価値は大幅に減少してしまいます。特に、忙しい経営層や現場マネジメントに関わる人たちに情報を提供していくのであれば、スピードの担保や、直観的に理解できるビジュアルの工夫も重要になります。

▶ データの活用 ・・・溜まったデータを適切に可視化できると、見た人の中で課題を発見したり、仮説を立てたりといった「思考」が動き始めます。そのとき、システムがそうした思考の流れを止めることなく、更に思考を広げたり、深めたりすることができ初めて、有効なデータ活用につながっていきます。パッケージ製品を活用する場合には、独自の「試行錯誤」や「仮説検証」をしようとしたとたんに対応が難しくなるケースがありますので注意が必要です。

▶ データの分析・予測・KPIの実現  ・・・データの分析には、3つのフェイズがあると言われています。

● Descriptive ~ 現状を提示する ● Predictive ~ 未来を予測する ● Prescriptive ~ 最適解を探し出す

昨今は、人材マネジメントやタレントマネジメント分析機能を持っている人材マネジメントやタレントマネジメントも増えています。ただし、中にはDescriptive(現状を提示する)のレベルまでのものも少なくありません。そのシステムが、将来を「予測」をし、「最適解」を探し出すサポートをし、「KPI」構築の段階まで活用していける力を秘めているのかを、見極めることが大切です。

これらが、人材マネジメントにIT/システムを活用し、経営に貢献していこうとしたときに、システムに求められる要件だと考えています。データの分析・予測・KPIまで一足飛びに実現することは難しいかもしれません。しかし、データの一元化を実現していく時点から、将来の発展を視野に入れておくことが、システムへの投資効果を最大限に得るために大事なポイントになるでしょう。

そのシステムは、PDCAを回せるか

ビジネスでPDCAを回していくことが重要だということに異論を唱える方はほとんどいないかと思います。しかし、人材マネジメントの世界ではPDCAがうまく回せていないケースが少なくないのではないでしょうか。

それは、P「計画」の基になった「仮説」や「期待」と、D「実行」すること出た結果が、果たして合っていたのか否かをC「チェック」するためのデータ(事実)が取られていない、もしくは散在している、というのが大きな理由のひとつだと思います。

また、一生懸命にデータを集めたとしても、全体を様々な角度から俯瞰し、仮説や期待に対する致命的なギャップを発見したり、組織やグループでバラツキがあるエリアを特定したりして、原因解明に向けてドリルダウンしていくことができなければ、適切なA/P「修正・再構築」を行うことはできません。

システムの中には、D「実行」には強いものの、C>A>Pの部分については担当者の手作業に頼らざるを得ないといったものもあります。もちろん、システム投資はDの部分だけにするという選択肢はあります。問題なのは、PDCAを回せると考えて投資をしたにも関わらず、結果Dにしか対応できていない、という状況です。まず自分たちの業務のPDCAサイクルをイメージし、そこにIT/システムがどのようにフィットするのか(もしくはしないのか)、という視点で評価する視点が大事になります。

優れたシステムが実現してくれること

優れた人材マネジメントシステムは、それを使う人たちの思考を促し、行動を変える力を持っています。逆に言えば、そうしたことを起こせないシステムは、マネジメントに活かし、経営に貢献していくツールとしては力不足と言わざるをえないと思います。

先日、あるお客様に人材マネジメントシステムを導入したところ、様々な課題が浮き彫りになり、あっという間に次に取る施策についての話が始まった、という場面を目の当たりにしました。システムの力を改めて実感した瞬間でした。

人材マネジメントにシステムを活用していこうとしたときには、是非以下のキーワードを元に、システムの能力を評価してみてください。

▶「思考を止めない」「思考を発展させる」「仮説検証ができる」
▶「気づきを与える」「行動を促す」「試行錯誤できる」
▶「予測できる」「予実差(GAP)を知り目標を達成できる」

是非、IT/システムを最大限に活用して、自社の人材マネジメントの質を上げ、経営に貢献していってください。そのために、ここでのお話を少しでもヒントにしていただければ幸いです。

(2013年1月10日)

管理人からの提言:2

話題になっている「タレントマネジメントシステム」と
どう関わっていけばいいのか?

当研究室管理人が、人材マネジメントシステムのマーケティング・営業の経験から見えてきた人材・組織マネジメントシステムの現状の課題と、進むべき方向について考えていきます。

インフォテクノスコンサルティング株式会社
セールス・マーケティング事業本部長/人材・組織システム研究室管理人
大島由起子


今、「タレントマネジメントシステム」が注目を集め始めている

今、「タレントマネジメントシステム」が注目を集め始めています。私の所属するインフォテクノスコンサルティング(株)(ITC)が持つ、Rosic「ロシック」人材マネジメントシステムシリーズ(Rosic)に対しても、ユーザー企業からのお問合わせ、メディアからの取材が増えています。

ITCでは、2003年から給与システムを敢えて持たない「人事情報システム」を販売・導入し始めました。2010年からは名称を「人事情報システム」から「人材マネジメントシステム」へ変更。この9年間、一貫して「人事・組織戦略にITを十分に活用する」ことを目指して活動をしてきました。

発売から数年間は、給与システムを持たない「人事情報システム」の営業で企業を訪問しても、「人事部にシステムを売りにきて、給与システムがないなんて考えられない!」と門前払いをされることも珍しくありませんでした。しかし、ここ2~3年は、「給与システムはもう動いている。人材や組織のマネジメントに使えるシステムがほしい」という企業が増え、Rosicの導入企業も急速に増えていました。

そこに、「タレントマネジメントシステム」の盛り上がりの兆候。私たちが取り組んできたことが認められてきたことを嬉しく思うと同時に、この分野に長くいるだけに、「タレントマネジメントシステム」という言葉が独り歩きをし始めているのではないかという懸念も芽生え始めているのが正直なところです。

そこで今回は、「タレントマネジメントシステム」をどのように考えていけばいいのかについて、考えてみたいと思います。

「タレントマネジメント」「タレントマネジメントシステム」とは何か?

「タレントマネジメント」とは何か、という定義については、以下の二つが引用されることが多いようです。

■ 人材の採用、選抜、適切な配置、リーダーの育成・開発、評価、報酬、後継者養成等の各種の取り組みを通して、職場の生産性を改善し、必要なスキルを持つ人材の意欲を増進させ、その適性を有効活用し、成果に結び付ける効果的なプロセスを確立することで、企業の継続的な発展を目指すこと。(米国人材マネジメント協会(SHARM)より)

■仕事の目標達成に必要な人材の採用、人材開発、人材活用を通じて、仕事をスムーズに進めるために最適な職場風土、職場環境を構築する短期的/長期的、統合的な取り組み。(米国人材開発協会(ASTD)より)

これらをよく読んでみると、従来から人事部を含む人材マネジメントに関わる部署・人が担ってきたこと、もしくは担うことを期待されてきたことが、簡潔にまとめられているという印象を持つのではないでしょうか。つまり、これまでに見たことも聞いたこともない、まったく新しい世界の話ではない、ということです。

もちろん、市場は変化し、グローバル化が進み、雇用/労働環境も変わるなか、実際に取るべき施策の具体的な内容は、10年前から様変わりをしていることが多いでしょう。また、今ベストであることが、将来にわたって変わらないという保証はありません。これまでのビジネスの常識を覆すような出来事が次々と起こるなか、「何か新しいことをする必要があるのではないか」と感じている人は多いはずです。

そこに、「タレントマネジメント」という新しい言葉が与えられた。そして、その「新しい活動」を支えるための「タレントマネジメントシステム」が存在している。それらのほとんどが「外国製」である。「グローバル化」が大きな課題になっている今、国外のグローバル企業が導入している人材管理方法を、機能として実装しているシステムは一見の価値があるはず。。。これが多くの日本企業が「タレントマネジメントシステム」と出会うときの状況ではないかと思います。

ですから、自社にとって必要となる「タレントマネジメント」は何なのかを考える際に、「タレントマネジメントシステム」が提供する整然と揃えられた各種機能を参考にしてみようと思うことは、自然の流れと言えるかもしれません。

ただそのとき、忘れてはならない点があります。提供されている「タレントマネジメントシステム」がITを活用したパッケージソリューション/システムである限り、その基本的な性質は「ベストプラクティス」の集合体である、ということです。つまり、あくまで最大公約数的なプロセスの提案である、ということです。

一方「タレントマネジメント」は、企業の重要な戦略的分野であって、本来、他社と横並びのベストプラクティスを100%適用できる世界ではないはずです。もちろん、運用のレベル、システムの柔軟性の高さなどから、適用できることも多々あるでしょう。しかし、基本的な性質として、是非押さえておきたいポイントです。

このことを忘れて、「『タレントマネジメント』の強化をしなくては」→「そのためにはシステム(IT)の活用が必要となる」→「タレントマネジメントシステムを検討してみよう」→「機能がたくさん揃っているシステムがいい」という流れに入ってしまうと、実際に運用を始めてみたら例外運用が多くなってしまった、結局は基本的な人材データの単純な参照にしか使えていない、という悲劇を引き起こしかねません。

実際に、自社独自のタレントマネジメントを支援するためのシステムを導入しようと思っていたのに、いつの間にか、購入したタレントマネジメントシステムでできることが「タレントマネジメント」だという認識に陥ってしまっていた、という笑えない状況に陥ってしまったケースを聞いたことがあります。

特に今、IT業界では「タレントマネジメントシステム」が大変ホットな分野になっています。2012年に入って、世界的な大手IT企業が「タレントマネジメントシステム」「人事関連システム」を専門的に手掛けていた企業を次々にM&Aし、さながら「タレントマネジメントシステム」戦争勃発前夜の様相を呈しています。これは、この分野が一気に成熟する大きなチャンスであると同時に、ユーザーが賢く本質を見極めていかないと、大々的なマーケティング活動・営業攻勢の中で、思っていなかった落とし穴に落ちる危険性もあるということでもあります。

実際、「タレントマネジメントシステム」を、「グローバル人材マネジメント」がメインのシステムだと捉える向きもありますし、「後継者育成」のため、つまり選抜された人材を管理するためのシステムだと考えている企業もあります。また、現在国内にいる人材・組織の生産性の上げるためのシステム、つまり従業員全員のためのシステムと位置づけられるケースもあります。これらのどれが間違っている、合っているという問題ではありません。あなたの会社にとって、何が優先順位の高い「タレントマネジメント」で、そのためにどうITの力を活用するのか。しっかりと見極めることが大事だ、ということです。

「タレントマネジメントシステム」に期待すべき価値

冒頭に申し上げたように、私たちは9年前から、「人材・組織マネジメント」にITを十分に活かしていくためのシステム提供を考え、実際にお客様と共にシステムを成長させてきました。

「人材・組織マネジメント」とは、企業が持つ人材の価値を十分に引き出し、組織力を高め、経営戦略実現をサポートする一連の活動である、と考えています。「タレントマネジメント」はそうした包括的な「人材・組織マネジメント」の中核となる活動であり、人事が経営に貢献していくための重要な位置を占めるものと言えるでしょう。

「人材・組織マネジメント」に対してITを十分活用し、経営に貢献していくためには、以下の4つのステップが揃っていることが大変重要となります。

■人材関連データの一元化
■人材関連データの可視化
■人材関連データの活用
■データに基づく予測とKPIの構築

単に人事部に必要なデータだけではなく、現場や経営層が人材や組織のマネジメントをする際に必要となるデータ、マネジメントを行った結果蓄積されるデータ等をすべて一元化する。蓄積したデータを直観的にわかる形で可視化する。それらを判断/決断、行動するために活用。最終的には未来を予測して、経営に貢献していく。こうした一連の活動を有機的につないでいくことができるシステムかどうか。

それが、投資した価値以上の価値を生み出せる「人材・組織マネジメントシステム」であるか否か、「タレントマネジメントシステム」であるか否かを分けるポイントとなります。

ただ、今の「タレントマネジメントシステム」の認識のされ方、ユーザーの使い方を聞いていると、上記のうち、「可視化」と「活用」の一部の範囲に留まっているものが少なくないのではないかという印象を持ってしまいます。もしそれが事実だとしたら、少なくない投資の結果としては大変残念なことです。

人材・組織に関するシステムに限らず、よいビジネスアプリケーションシステムというのは、以下のような働きをするものです。

■使う人の「思考を止めない」「思考を発展させる」
■使う人に「気づきを与える」「行動を促す」
■使う人が「予測できる」「予実差を知り目標達成を実現する」

「タレントマネジメントシステム」に対してもこれらの働きを期待したいものです。これらを実現するために、上記の4つのステップが重要となります。

システムは多くの機能が提供してくれますが、それだけであれば、「点」です。

それらの「点」と「点」を、人の思考はどのようにつなぎたいと思うのか。もしくは飛び越えたいとと思うのか。全体という「面」のなかで、「点」や「線」をどのように位置づけたいと思うのか。それは立場の違う人によって異なるのではないか。もしくは自社ならではの位置づけを発見できること自体が重要なのではないか・・・等々。

単に「点」を「点」としてだけ提供するのではなく、このような人の思考や行動をサポートすることができて、システムは本当の価値を発揮します。

今後「タレントマネジメントシステム」を検討したり、活用したりしていこうと考えているとしたら、そのシステムは上記の4つのステップを揃えることができるのか、思考・行動をサポートできるだけのクオリティや柔軟性、拡張性を持っているのか、是非確認をしていただきたいと思います。

もちろん、そこまでは期待しない、単にプロセスが簡略化できればいい、データが簡単に参照できればいいということであれば、それに見合うだけの投資にとどめ、簡素にまとめるという選択肢もあるでしょう。

重要なのは、中途半端な決定をしないということです。

「できる」と思って投資したシステムが、ふたを開けてみたら十分に力を発揮しなかった。これは絶対に避けたい事態です。そのためにも、今回のお話した内容を頭の中に置いていただいて、「タレントマネジメントシステム」に向き合っていただきたいと思います。

(2012年9月6日)

管理人からの提言

~人材データの活用が企業の成長の成否の鍵を握る~
旧来型人事データ管理からの脱却の必要性

当研究室管理人が、人材マネジメントシステムのマーケティング・営業の経験から見えてきた人事情報システムの現状の課題と、進むべき方向について考えていきます。

インフォテクノスコンサルティング株式会社
セールス・マーケティング事業本部長/人材・組織システム研究室管理人
大島由起子


どうして現行のシステムを入れ替えるのか?

ここ3年で弊社の人材マネジメントシステムを導入いただいたお客様について整理してみると、その8割以上が、それまでの人事・給与システムの入替か、現行の人事・給与システムには手をつけず、人材・組織マネジメントに活用するためのシステムを追加で導入するというものでした。また、人事部ではなく、事業本部が自分たちのマネジメントのためにシステムを構築するというケースも増えています。

これは何を意味するのか。ひとつ明らかに言えることは、それまでの人事・給与システムが、それぞれのお客様が持っていた課題に応えられていなかった、ということです。どうしてそうした状況になってしまったのか。どうしたらそうした状況に陥らない、もしくは抜け出せるのか。そして、抜け出す先に目指すべきものは?今回はそうしたことについて考えてみたいと思います。

人事を巡る環境と役割の変化にシステムがついていっていない

まず、1970年代から1980年代までの日本企業について整理してみます。大卒男性ホワイトカラーについては終身雇用(労働市場全体が「終身雇用」であったわけではありませんが)。人事制度は職能資格制度が取り入れられ、新卒中心の採用が行われていた、というのが一般的な姿ではないでしょうか。そこでの人事部の役割の中心は、「法律・ルールの順守」「問題を発生させない」「発生した問題の火消し」といったものでした。そうした人事部にフィットした人事情報管理システムの特徴は以下のようなものとなりました。

ユーザー: 人事担当者
扱う情報: 労務・給与・勤怠関連
目的: 業務の効率化・コスト削減

1990年代に入ると、バブル経済の崩壊があり、人事部を巡る環境が劇的に変化します。成果主義が導入され、リストラや早期退職が実施されました。制度には選抜人事的な発想が取り入れられ、中途採用も一般的に行われるようになりました。そして、2000年以降、非正規雇用、雇用延長、多様性、グローバル化といった波が待ったなしで押し寄せてきていいます。まとめると・・・

【人事を巡る環境の変化】
~1980年代   終身雇用・職能資格制度・新卒中心採用
1990年代~    成果主義・リストラ(早期退職)・中途採用・選抜人事
2000年代~    雇用延長・非正規雇用・多様性・グローバル化

こうした変化に対して、人事部に期待される役割も自ずと変化してきています。それは、「全社戦略に関わる経営のビジネスパートナー」であり、「現場のマネジメント支援者」であり、「人材開発・組織開発のエキスパート」ということになるでしょう。このような役割を担う人事部の武器となるシステムに求められる性質も、当然変化して然るべきです。

【人事情報システムに求められる性質(キーワード)】
■  均一的/一般ルール/静的/マス対応
         ↓
■  違い/独自性/変化(動的)/個別/現場/未来

そして、具体的に必要とされているシステムとしては、以下のようなものになるはずです。

ユーザー: 経営層・現場マネジャー・人事戦略担当・人事担当
扱う情報: 人材・組織マネジメントに必要なデータ
目的: 業務(人材マネジメント)の品質向上

最初に上げたものとまったく違っているのがわかります。もはや、人事部が粛々と利用してきた旧来型の「人事・給与システム」の守備範囲を超えているのです。冒頭に上げた弊社が経験した数字は、こうした変化に気がつき、行動に移している人事部や人材マネジメントに関わる人たちが確実に増えてきていることの表れでしょう。

システムベンダーの問題とユーザーの問題

システムのご相談を受けるとき、大抵の場合「今のシステムが使えていない」「自分たちの求めているものに応えてくれていない」という話になるのですが、ここには2つの問題が潜んでいると思っています。ひとつは、システムベンダー側の問題。もうひとつはユーザー側の問題です。

ベンダー側の問題としては、「『人材データ管理』は人事部専有の仕事」という発想から抜け切れてない、「戦略」の本質を理解してそれに対応できる形のシステムがまだまだ少ない、ということだと思っています。どれくらいのシステムが「人材データ管理でメリットを受けるべき人たちは誰か」「『管理』ではなく、『活用』となったときに求められる機能やサポートとは」などについて真剣に考え、そのうえで実効性のある形にできているかと考えると、業界として心もとない面があることは否めません。

ユーザー側の問題は、自社にとって現在そして未来に何が必要なのか、そのために行う投資の効果は何なのか、誰がメリットを受けるべきなのか、といった点を明確にし、決裁権者も含めたステイクホルダー内できちっと共有できていないケースが見受けられるということです。こうしたことは、各社の戦略に関わる部分ですから、他社の事例を参考にすることはできても、そのまま真似ることはできません。人事部の役割の変化やシステムに求められるもの変化に気がついていたとしても、この部分をしっかりと固めておかないと、期待に沿ったシステム選択・構築は難しいでしょう。

こうしたことをよく理解していただくことが、旧来型の人事情報管理から脱却して、新たな人事の役割を遂行するのに役立つ心強いツールを手にするために重要になると思います。

今後、人材データの活用が企業の成長の成否の鍵を握る

アメリカの企業では、高度なデータ収集技術と分析技術を駆使して、人材から最大の価値を引き出そうとする動きが出ていると言われています。

例えば、「多くの企業は、トップの成績で一流大学を卒業した人材を採用したがる。しかし、グーグルとAT&Tは、イニシアティブを取る能力があると証明されている人材の方が、仕事で高い成果を上げる可能性が高いことを定量分析で明らかにした」(ダイヤモンド・ハーバードビジネスレビュー 2010年12月号「『人事分析学』がもたらす競争優位」)といった具合です。

以下も、アメリカで実際に起こっていることです。

「もはや人事部は、社員の人事データを部内だけにとどめておくことはできない。組織が成功するために、これらのデータを利用する必要があるからだ。ジェットブルー、ベスト・バイ、リミティッド・ブランズは、従業員満足度調査と企業業績に密接な統計的関連があることを発見した。- 通常、この関連は事業所や支店、店舗レベルで見られる。この深い関連を知ったベスト・バイは、年に一度行っていた従業員の意欲に関する調査を、四半期に一度行うことにした。」(同誌)

貴社の従業員満足度調査はどのように使われているでしょうか?活用できるような形でデータベース化できているでしょうか?他のデータをクロス分析して課題を抽出できるようになっているでしょうか?

「分析の理論は、実践に移さなければ意味がない。それには定量分析の専門家だけでなく、心理統計学や人材管理システムとそのプロセス、さらに雇用法の専門家が必要になる。・・・グーグル、P&G、インテルなどは、人事慣行についてより深い洞察を得るために、人事分析に関するグループを確立している。」(同誌)

分析担当者として、博士レベルの分析の専門家を雇う企業も少なくないといいます。アメリカで起きていることがすべて正しいかどうかは議論のあるところですが、少なくとも、グローバルの世界の競争相手となる企業が、「人材」がビジネスに与えるインパクトを痛感し、ここまで踏み込んでいるということを認識する必要があるでしょう。

日本でも、以下のように考え、実際にその実現にむけてシステム構築をしている企業があります。

「仮説検証や試行錯誤を、思考を止めないスピードで自在にサポートしてくれる仕組みを構築する。」
「事業部のマネジメントを強化するには、全社人事が持っている静的な情報だけでは不十分。生々しい現場の情報とスピード感に応えられる仕組みが必要。」
「事業部が自律的に人材・組織マネジメントに取り組むためのインフラを提供する。」
「要員シミュレーション・人件費シミュレーションを、形式的にではなく、柔軟に行ってベストな解を見つけていく。」
「人材・組織に関連するデータを紐づけて、『成功の再現性』を高めていく。」

求める結果を明確にしていけば、システムの選択(ベンダーの問題)・構築(ユーザーの問題)もぶれにくいものになりますし、人事部が価値を生み出す組織としての役割を果たしていくことができます。これを機会に、貴社の既存の人事情報システムについて、人材データの活用について、考えてみていただければと思います。 

(2012年3月)